亡くなった方の金融機関口座は凍結されますが、各相続人は、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。
下記にセミナーのレジメを掲載しますので、ご確認ください。
令和元年9月16日
<相続・遺言・後見のセミナー>
第2回 預貯金の払い戻し制度の創設について
主催:香里園行政書士の会
l 亡くなられた方の預貯金口座は金融機関が死亡を知ると凍結されます。
(相続法改正前):払い戻しを行うには、遺言書又は遺産分割協議書が必要
1. 遺言書により、その口座の承継を指定された相続人が払い戻しを行う。
2. 遺言書が無い場合は、相続人全員が集まって遺産分割協議を行い、その口座の承継者を決めて払い戻しを行う。
※生活費や葬儀費用の支払い、借金の支払いなどができない。
⇒相続人が立て替えなければならない事態も発生する。
(相続法改正後):遺言書・遺産分割協議書が無くても1部払い戻しが可能
2019年7月1日施行(民法909条の2)
1. 遺言書により、その口座の承継を指定された相続人が払い戻しを行う。(変更なし)
2. 預貯金の一定割合については、相続人が単独で金融機関の窓口で払い戻しを受けられるようになった。
Ø 単独で払い戻し可能額:(相続開始時の預貯金額)× 1/3 × (法定相続分)
※ただし、1つの金融機関から払い戻しできるのは150万円まで
(例1)被相続人(亡くなった方)の預金 600万円
相続人 長男と次男の2人 (法定相続分各1/2)
長男が払い戻しできる額:600万円× 1/3 × 1/2 = 100万円
次男が払い戻しできる額:600万円× 1/3 × 1/2 = 100万円
(例2)払い戻しを請求する相続人の法定相続分が1/2の場合
例 |
相続開始時の預金残高 |
払い戻し可能額 |
|
A銀行 |
普通預金1,200万円 |
1,200万円×1/3×1/2=200万円 |
⇒ 150万円 |
B銀行 |
普通預金600万円 定期預金240万円 定期預金300万円 |
600万円×1/3×1/2=100万円 240万円×1/3×1/2= 4 0万円 300万円×1/3×1/2= 5 0万円 |
合計190万円 うち ⇒ 150万円 |
C銀行 |
普通預金300万円 定期預金150万円 定期預金 9 0万円 |
300万円×1/3×1/2= 5 0万円 150万円×1/3×1/2= 2 5万円 9 0万円×1/3×1/2= 1 5万円 |
⇒ 合計9 0万円 |
※A,B,Cと3つの銀行に預金がある場合、計390万円まで、払い戻し可能。
Ø 払い戻し請求に必要な書類
※払い戻し請求者が相続人であること及びその方の法定相続分が確認できる書類
① 被相続人(亡くなられた方)の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本
② 全ての相続人の戸籍抄本(謄本)
※相続人が兄弟姉妹の場合、被相続人のご両親の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本
③ 払い戻し請求者の印鑑登録証明書
3. 仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになった。(家事事件手続法の改正)
Ø 家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停が申し立てられている場合に、各相続人は、家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払い戻しを受けることができる。
Ø 但し、生活費の支払い等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られる。
Ø 単独で払い戻し可能額:家庭裁判所が仮取得を認めた金額
Ø 払い戻し請求に必要な書類
① 家庭裁判所の審判書謄本
② 払い戻し請求者の印鑑登録証明書
4. 留意点
l 上記の書類を準備せずに金融機関に払い戻しの請求に行くとその時点で、被相続人(亡くなった方)の口座は凍結される。
l 被相続人に関係の深い相続人(同居していた方、事業を継ぐ方、老後の世話を行った方など)と疎遠な相続人に関係なく、各相続人が単独で払い戻しを行うことができる。
⇒ 被相続人が、遺言により、遺産の分配方法を指示することがより重要になる。